カテゴリ:K's Room
教師も育つ運動会(校長の思い出より)

 今週は明後日14日の運動会本番に向けて、さらに校内は熱い雰囲気に包まれています。先週は運動場から、「えっ?あの先生がこんなに熱い指導を…」と思うような教師の声が響いているときもありました。すると職員室では、またいつか担任をしたくて仕方ない教頭先生や教務主任のO先生などが「私もまた熱く子供たちとたたかいたい」と、夢を語り始めます。この時期は子供たちだけでなく、教師も大きく成長する時期です。特に子供たちと真剣に向き合う若手(誰までが若手かは分かりませんが、自分が若手と思っていれば若手です)の先生を見て、私もいろいろと担任時代を思い出しています。

 真鶴町の学校に勤務していた時の思い出です。私はまだ40代前半で6年生を担任していました。その時一緒に学年を組んでいたのは20代の体育会系の熱血教師・T先生でした。T先生は「運動会の表現で〇段ピラミッドと〇段タワーにチャレンジしませんか?」と、とんでもない提案をしてきました。当時まだ高学年の組立体操は運動会の華で、その学校では小学生にしては結構難易度の高い技にチャレンジしていました(段数の多いピラミッドやタワーは、その後関西の中学校での事故などもあり縮小されていきました)。T先生は組立体操がさかんに行われていた関西の学校から資料を集めるなどやる気満々でしたので、種目の主担当を任せてみました。
 しかし、教師のやる気だけではできるわけがありません。練習していく中で、「どの子がどのポジションに向いているか」「誰と誰を組ませるか」「どの子をリーダーにするか」「どういう順序で練習を進めていくか」「音楽を何にするのか」「教師をどこに配置するのか」などの計画が綿密とはいえませんでした。また、「危ないからやめた方がいい」とチャレンジに後ろ向きな、一緒に指導するベテラン教師を巻き込んでいくのも下手で敵に回してしまいます。でも、T先生はすごく一生懸命で、うまくいかないと何度も再案を考えてきました。用意してある変更案をいつ示そうかと思っていた私もその熱意に負け、「ついてくる子供たちやT先生に何とか達成感を味わわせてあげたいな」と思うようになり、子供たちと一緒になって試行錯誤を繰り返しながら練習を重ねました。陰で今までにないくらいT先生を支えました。

 そして、忘れもしない運動会前日の練習で、初めてピラミッドが成功しました。いつもと同じように練習の最後に5・6年の子供たちがT先生の前に集合しました。「初めて成功した練習の最後にT先生が何を語るのだろう」、子供たちも私たちも固唾をのんで見守っていたところ、思いもしないことが起こりました。T先生は思いがあふれ、子供たちの前で泣き出してしまったのです。少し待ってみたのですが、T先生の涙は止まりません。次に運動場を使う学年も集まってきていたので「仕方ない、ここは自分の出番だな」と思い、私は子供たちの前に歩いていき、「みんな、明日はこのT先生の涙に応えろよ!」と、大きな声で檄をとばし最後の練習をしめくくりました。

 運動会当日も子供たちは見事に演技を成功させました。退場した後に、6年生の子供たちが「先生、ヤッター!」と喜びを爆発させながら、私たち担任の方に走ってくるのが見えました。私はハイタッチの構えをして子供たちを待ちました。すると、自分のクラスの子供も含めほとんどの子供がT先生の元へ向かうではありませんか。「あれ?」とちょっと淋しく思いながら、子供たちと満面の笑みでハイタッチしているT先生の様子を眺めていました。
 運動会後に「僕、やりました!」と話しかけてきたT先生に「いや、あなたを支えたのは子供たちと私だから」「あなたは子供に育ててもらったから」と心の中で思いつつ、「最後までよく頑張ったよな」とねぎらいの言葉をかけました。でも本当に最後まであきらめない姿勢はすばらしく、結局私たちベテランが「もしものために」と用意していた代案や変更案は一度も出さずに運動会を終えることができました。後でT先生のノートを見せてもらいましたが、ノートほぼ二冊分組立体操の計画でぎっしり埋まっていました。この運動会で、T先生はたくさんのことを学び、教師として大きく成長しました。


 本校でもこの運動会を通して、教師がまたいちだんと成長していることと思います。校長は練習の邪魔なのでほとんど見に行きませんが、たまに校長室から練習を眺めていると、上記のような熱い教師のドラマがそれぞれの学年・ブロックにあるのだろうなと感じることがあります。運動会が終わったら、いろいろとエピソードを聞いてみようと思います。

 ちなみにT先生は今、小田原市の学校で総括教諭として、若手を熱く指導するなど学校の核として活躍されているようです。

公開日:2021年10月07日 13:00:00
更新日:2021年10月12日 13:12:13